桜の種類






 17日(土曜日)の朝、新宿御苑のソメイヨシノは散ってしまっていましたが、ちょうど山桜、八重桜が満開でした。
江戸時代の国学者本居宣長は、美しい桜をたたえて、

「しき嶋の やまとごころを 人とはば 朝日ににほふ 山ざくら花」

と詠みました。

 桜といえば、西行法師の

「願はくは 花の下にて 春死なむ そのきさらぎの 望月のころ」

ともあります。





山桜(やまざくら)
 関東以西の山々雑木林などに多い。昔からもっとも普通に鑑賞された
芽出しの色も固体によって、黄褐色から濃い赤褐色まで、いろいろの
変化がある。
 常緑樹などを背景にした斜面にあるときが最もよく目立つが、起伏の
ある広い庭園に他の植物と混じって植えたものもよい。本種に似たカス
ミザクラは少し高いところに生えるが、芽出しはそれほどの変化がない
花期も少しおそい。
 オオヤマザクラ(エゾヤマザクラ)はベニヤマザクラともいい、花色が濃く、
さらに寒地を好む。
江戸彼岸桜(えどひがんざくら)
 山地にも自生するが栽植もされ、サクラのなかでは最も長寿なので、
寺院、神社の境内や公園などに老樹が多い。







丁字桜(ちょうじざくら)
 関東地方の丘陵地に多く、メジロザクラともいう。花下向きに咲き
小さいが、日本海沿岸地方に分化した変種オクチョウジザクラは花が
かなり大きく、マメザクラ程度となる。






寒緋桜(かんひざくら)
 ひがんざくらともいう。台湾原産で、春早く咲くのでその名があるが、
元日桜と呼んでいるものにもこの系統のものがある。花は緋桃のよ
うな濃い紅色で、下向きに半開し、他のサクラとは趣を異いうる。美し
い種類で、寒さには強くない。





豆桜(まめざくら)
 本州中部地方の山地に多い。枝は細く、葉は小さく、花も小ぶりで、
盆栽などに向く。富士山に多いのでフジザクラともいう。
 全体が緑色で、花の白い品種を録咢桜(りょくがくざくら)という。






普賢象(ふげんぞう)
 サトザクラの中で最も美しい品種で、また最も多く栽植されている。
花柄が細長くて下垂れして咲く。花色は淡紅色であるが、やや濃い
のと淡いのとがある。
 濃いのを紅普賢、淡いのを白普賢と呼ぶ。麒麟と同様に花心から
2枚の小葉片がでる。それを普賢菩薩の乗っている象の牙に見立て
てこの名がついたという。



御車返(みくるまがえし)
 八重一重、桐ヶ谷ともいう。大輪で半八重と一重が混じって咲く。昔、
車上で、この花を見た2人が、1人は一重、他は八重といい、車を返し
て確かめたので、その名がついたといわれいる。






染井吉野(そめいよしの)
 ごく普通のサトザクラで、多く植えられている。花は一重咲き、淡紅色
で、葉に先だって咲く。若枝、葉、花の柄などにエドヒガンによく似た軟
毛があるのが特徴で、エドヒガンとオオシマザクラとの雑種であること
が遺伝的に確かめられた。
 華美なサクラではあるが、早く老化するのと天狗巣病や公害に弱い
欠点があり、都市の街路樹としては公害に強い他の品種の育成が望
まれる。


妹背(いもせ)
 淡紅色で重ねの厚い八重咲きで、花弁の先が色が濃くなる傾向が
ある。花柄はやや長くて、下垂れして咲き、咢は重複する。子房も
しばしば2個できるために、果実が二つ並んでつくことが多く、この名
がある。





鬱金(うこん)
 重ねのやや薄い八重咲きで、ふつうのサトザクラとちがって、花が
少し緑色をおびた淡黄色となる。







麒麟(きりん)
 花期が、ややおそく花は花弁の重ねが厚く、濃い紅色となる。子房は
花心にあって1〜2枚の緑色の小葉片に退化する。







法輪寺(ほうりんじ)
 京都の桜の名所、嵐山の近くの法輪寺にあったのでその名が。重ね
のやや厚い八重咲。淡紅色で内側の花弁は白っぽく、花の柄は長くて
垂れ下がる傾向がある。
 





一葉(いちよう)
 普賢象や松月のように花心に緑色の小葉片があるが、1枚のことが
多いので一葉の名がある。







数珠掛桜(じゅずかけざくら)
 新潟県北蒲原郡、梅護寺にある名桜。花が長く、色が濃く、重ねの
厚い菊咲で、下向きに咲く。







 天の川(あまのがわ)
 枝が立ち上がり、花柄も上向くために花が上向きに咲くサトザクラ
で、半八重、淡紅色で花期はややおそい。花の白いものは特に七夕
といって区別することがある。






鷲の尾(わしのお)
 芽出しの色は淡く、褐色をおび、目立たない。花は、柄が短いために
枝の房のようにやや密につき、白色で重ねの薄い半八重咲、ときに旗
弁がでる。4月中下旬に咲く。






寒桜(かんざくら)
 サクラの中では最も早咲で、東京では2月下旬に咲く。枝は黒ずんで
いて、多少ごつごつした感じがある。
 花は単弁でやや色が濃く、柄が短い、関東以西には所々に植えられ
ていて、多少の異名があり、サトザクラとカンヒザクラとの雑種と想像
するむきもある。




松月(しょうげつ)
 花は淡紅色で重ねが厚く、花期はやや早く、花つきがよい。花心には
普賢象のように緑色の小葉片2枚がある。成葉時には普賢象と違って
オオシマザクラの系統が強く出てくる。






御衣黄(ぎょいこう)
 鬱金によく似、花は淡黄色であるが、花弁は紅色と緑色がかった線
が入り、花はわずかに小さいことが多い。







泰山府君(たいざんふくん)
 名は保元のころの公卿、桜町大納言が花の散りやすいを嘆き、泰山
府君に祈ったとの故事に基づく。毛のある品種で、枝が太く、花柄は短
く、花は淡紅色の八重咲く。






十月桜(じゅうがつざくら)
 コヒガンに一種で、花は春に咲くほか、秋にも咲くので10月桜の名が
ある。八重咲も一重咲もある。







関山(せきやま)
 カンザンともいう。花はやや遅咲であるが、色濃く、重ねの厚い八重
咲で、もっともきれいなものの一つ。花心には普賢象と同様の2枚の
小さい緑色片がある。






糸括り(いとくくり)
 枝の先に花が密について、柄が短く、花を枝先に糸でくくりつけたよう
に咲くのでこの名がある。
 八重咲、淡紅色で、花弁の基のほうは色が淡くなることが多い。






糸桜(いとざくら)
 エドヒガンの枝垂れ品種で、古くから知られていた。京都、円山公園、
祇園の夜桜でよく知られたこのサクラは、明治、大正、昭和を通じて、京
都の名物であったが、惜しくも1947年(昭和22)に枯れ、今は2代目
の若木がそれに変わっている。